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大阪地方裁判所 昭和47年(わ)4005号 判決 1980年10月28日

主文

被告人若宮正則を懲役一〇年に、被告人宮本礼子を懲役六年に処する。未決勾留日数中、被告人若宮正則に対しては一八〇〇日、被告人宮本礼子に対しては二〇〇〇日を、それぞれその刑に算入する。

訴訟費用中、国選弁護人に関する分は被告人宮本礼子の、証人米田義文に関する分は被告人若宮正則の各負担とし、その余は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一被告人若宮正則は、共産主義者同盟赤軍派に所属していたものであるが、治安を妨げ、かつ警察官らの身体をも害する目的をもつて爆発物を使用しようと企図し、かねて作つておいた時限装置式爆発物(ドリンク剤空びんに塩素酸ナトリウム、フェロシアン化カリウム(黄血カリ)、砂糖などを混合した爆薬を入れてジュース缶に収めたうえ、びんと缶との間に溶解した鉛を流し込み、びん口に起爆装置として硫酸を入れた試験管をコンドームで覆つて取り付け、びんと缶の口にそれぞれ蓋をして密閉した構造のもの四個をひとつに束ねたもの)を、大阪市浪速区水崎町一八番地所在の大阪府浪速警察署水崎町派出所内に仕掛けるに際し、同派出所勤務中の警察官を殺害するに至るかも知れないことを知りながら、あえて昭和四七年九月四日午前三時四〇分ころまでに、右爆発物を同派出所内に仕掛けて同日午前三時四〇分ころこれを爆発させ、もつて爆発物を使用するとともに、同派出所勤務中の同署巡査部長坂本亀喜(当時四四歳)の職務の執行を妨害したが、同人に対し、通院加療約一〇日間を要する背部擦過傷等の傷害を負わせたに止まり殺害するに至らなかつた。

第二  被告人宮本礼子は、共産主義者同盟赤軍派に所属していたものであるが、被告人若宮正則が右犯行を行つた際、被告人若宮が前記目的をもつて爆発物を使用する情を知りながら

一  同年八月一五日、同市東区道修町二丁目五番地キシダ化学株式会社及び同区伏見町二丁目七番地島久薬品株式会社において、右爆発物の組成原料となるべき硫酸五〇〇グラム入りびん三本を購入し

二  同月一七日、同区道修町三丁目二七番地片山化学工業株式会社及び前記島久薬品株式会社において、右爆発物の組成原料となるべきフェロシアン化カリウム(黄血カリ)五〇〇グラム入りびん四本を購入あるいは入手し

三  同月中旬ころ、同区内の天満橋近くにある松坂屋百貨店八階釣具売場において、右爆発物の組成原料となるべき鉛製おもり約3.4キログラムを購入し

いずれもそのころ同市阿部野区丸山通一丁目三番三三号寿荘一三号室の当時の被告人両名方等において、被告人若宮にこれらを交付し、もつて被告人若宮の前記犯行を容易ならしめてこれを幇助した

第三  被告人若宮正則は、同年一二月二六日午後二時一〇分ころ、同市阿部野区阪南町一丁目一五番三一号所在の大阪府阿倍野警察署笛代田警ら連絡所西側道路上において、警ら中の同署警ら課勤務巡査長米田義文(当時五三歳)から、職務質問を受け、同警ら連絡所への同行を求められ、これに応じて同警ら連絡所入口前に赴いた際、同所において、警ら用自転車のスタンドを立てようとしていた右米田巡査長に対し、やにわに、右自転車を突き倒して同人の大腿部等に打ち当てさせ、手拳でその左顔面を殴打するなどの暴行を加え、もつて同人の職務の執行を妨害するとともに、同人に対し全治まで七日間を要する左眼打撲傷等の傷害を負わせた

ものである。

<中略>

弁護人は被告人宮本の本件爆発物原材料の購入交付行為について、罰則三条の幇助にはなりえても、罰則一条の幇助にはあたらないと主張し、その理由として罰則五条は罰則一条の幇助的態様のものを独立罪として処罰の対象とするもので、刑法六二条の特別規定であつて、罰則五条の規定は、正犯が罰則一条の使用に及んだ場合をも予定している(従つてこの場合にも罰則一条の幇助は成立せず、罰則五条のみが成立する。)のであるから、爆発物原材料の購入交付のような罰則五条に規定する態様以外のそれより軽い態様による幇助行為を本犯が爆発物の使用に及んだ場合に、罰則一条の幇助に該当すると解すると、罰則五条に規定する幇助行為との関係で刑の均衡を失する結果となるので、罰則一条の幇助は、直接爆発物を使用させることについての幇助行為に限られ、爆発物原材料の購入交付のような幇助行為には罰則三条の幇助が成立するに止まるというのである。

しかしながら罰則五条は、爆発物の高度の危険性にかんがみ罰則一条の幇助行為のうち特に重要なものを共犯従属性説の例外として、本犯が罰則一条の使用に及ばない場合にも、独立して処罰しようとする規定であつて、本犯が爆発物の使用に及んだ場合に、刑法六二条の適用を排除し罰則一条の幇助の成立を否定し、これを軽く処罰しようとする規定でないことは明らかである。そうすると、罰則五条に規定する態様によつてなされた幇助行為は、本犯が爆発物の使用に及んだ場合には罰則五条に該当するとともに罰則一条の幇助にもまた該当することになるのであつて、弁護人らの所論はこの点についての誤つた法解釈を前提として刑の均衡を論じ、罰則一条の幇助行為の態様を論じるもので失当というほかない。結局、罰則一条の幇助に該当する幇助行為には、直接爆発物を使用させることについての幇助行為に限らず、罰則五条に規定する態様での幇助行為、その他本犯の爆発物の使用を容易ならしめる行為のすべてが含まれると解するのを相当とする(従つて、当裁判所は、所論が挙げる大阪地裁刑事第五部判決昭和五三年四月二七日<判例時報九一八号一四二頁>の見解に賛成することができない。)。

そうだとすると、被告人宮本の本件爆発物原材料の購入(入手)交付行為は、被告人若宮の本件爆発物の製造を容易にし、ひいてはその使用をも容易ならしめたものであるから、これが罰則一条の幇助罪に該当することは明らかである。

(野間禮二 森岡安廣 中村隆次)

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